かせきさいだぁさんインタビュー



 

人気アーティストのかせきさいだぁさん(左)と、TOUGHERコンセプターである前田さん(右)。今季、かせきさいだぁさんに描いていただいたコラボTシャツ発売に伴い、今回はお二人にお話を伺うことができました。




ー本日はお忙しい中お越しいただき、ありがとうございます。まずはお二人の出会いからお聞かせください。

かせきさいだぁ(以下かせき)「京都のトランスポップギャラリーというところで毎年個展をやらせていただいているんですけど、そこで会ったのが最初かなと思います」

前田浩幸(以下前田)「そうですね、たしか6〜7年前くらいだったかと。それからすぐにコロナ禍になってしまって……。しばらく間が空いて、コロナ禍が明けてからの飲み会とかで再会した感じですね」

かせき「そこから、僕がたまにやっているモノづくり(サイダープロダクツ)とかを手伝ってくれるということになり、それからは多方面でお世話になっています」

前田「かせきさんが京都で個展をやられる際に、せっかくなので音楽の方も一緒に、ということで『かせきフェス』というクラブイベントを開催することになり、アートと音楽を融合して、両側面でファンにアプローチしようと。僕はそこでDJとして参加させていただきつつ、イベントの企画や仕切りも任せてもらってます」

かせき「在廊が終わったら、そのままクラブに移動してミニライブやったり、DJやったりして、みんなで楽しもうと。年2回くらい京都に行くので、その際に現地で仕切ってくれる方がいるというのは本当に心強いし、助かってますね」

前田「かせきさんにはいつでも京都に来ていただきたいので、我々としても楽しんで関わらせてもらってます。かせきさんはいつも約束の時間よりもちょっと早めに来て、鴨川で釣りされたりしてるんですよ」

かせき「みんなには着いたことは内緒にして、鴨川で釣りしてます(笑)」

前田「でも、インスタに投稿しちゃうから、みんな知ってるという(笑)」

ーわざわざ、東京から釣竿や道具を持っていかれるんですか。

かせき「バッグに入るくらい短くなる竿を持っていきますよ。ルアーも厳選して、荷物は最小限にして。それで、途中でお腹が空くと近所の渋い定食屋さんに入るんですが、釣竿は邪魔なので、店先の自動販売機の後ろに隠しておくんです(笑)」

前田「それで鴨川の下流から攻めて、ギャラリーがある上流までポイントを移しながら遡上していくんですよね(笑)」

かせき「そうそう、だからギャラリーに着くころには汗ダクというね(笑)」


ー釣り歴は長いんですか。

かせき「はい、子供のころからですね。地元の静岡で実家から歩いて2~3分のところに川があって。犬も飼っていたので毎日犬の散歩に行って『あ、ココ釣れそうだな』ってポイントをいつもチェックして、散歩が終わったら釣りをするという生活をしてました。それと同じようなノリで、京都行ったら『あ、魚いる!』って思って、鴨川でも釣りしちゃってるんです(笑)」

前田「昔、鴨川の上流では友禅流しと呼ばれる、反物を洗う慣例があったので、川の半分が紫色をしていたんです。今はさすがにやっていないので、川もすっかりきれいになりましたよね」


ー正直、かせきさんにそこまでアウトドアなイメージはありませんでした。

かせき「アウトドアっていうか、田舎の人間にとっては日常の延長みたいなものですね。みんなアウトドアっていうとキャンプしたりとかすると思うんですが、自分としては『なんでわざわざテントなんかに泊まるんだ? すぐそこにある家に帰って寝ればいいじゃん』って思ってました(笑)」


ーかせきさんはファッションもお好きかと思いますが、なにかこだわっていることなどはありますか。

かせき「アウトドアというわけではないですが、普段バイクに乗ることが多いので自分の生活に合った服装を選ぶようにしてますね。例えば、今日着ているバラクータのG9なんかも昔はあまり意識してなかったのですが、バイクに乗るときに袖のリブがあることで『風が入ってこないから寒くないんだ』って思って。はじめは(リブが無い)G4を買おうと思ったんですが、やっぱり(リブが付いてる)G9の方がいいなと。バブアーも、はじめは袖リブが付いてないモデルを着ていたのですが、やはりバイクに乗るときに寒くて、あとからリブ付きのモデルを買いなおしました」

前田「さっき、かせきさんが来られる前に、かせきさんはパンキッシュなスタイルの印象があると、みんなで話していたんです」

かせき「ちょうど20代の頃に、ヴィヴィアン・ウエストウッドとマルコム・マクラーレンのワールズエンドや、クリストファー・ネメスとか、ジョン・ムーアのシューズとか英国のブランドが好きになって。アメリカのものも着ないわけではないですし、特に意識しているわけではないんですが、なんとなくイギリスのものに惹かれることが多いですね」

前田「イギリスと言えば、釣りをするときにはトリッカーズを履いてるって前におっしゃってましたよね」


かせき「そうそう、以前は釣りをするときに長靴を履いていたんですが、長年履いてるとゴムが劣化してきちゃって。で、ふと『トリッカーズのカントリーブーツってこういうときにいいんじゃないか』と思い、最近はそれを履いて釣りしてるんです。しばらくして、紐が切れそうだったので青山のトリッカーズのお店に紐を買いに行ったら、スタッフの方に『そんなに光ってないカントリーブーツ、初めて見ました』と写真撮られて(笑)。『どうして光ってないんですか?』って聞かれたから、釣りやバイクで履いてますって言ったら『イギリスでは狩猟や散策、農業なんかで使われているので、本来の履き方ですね!』と。もちろん、ファッションとしても好きなんですが、最近はそのモノ本来の正しい使い方をしてあげたいなって強く思います」

前田「まさに“道具”ですよね。でも、ファッションも本当にお好きなのが伝わってきます」


かせき「こんなこと言ったら怒られるかもしれないけど、オシャレする人って田舎者が多くないですか(笑)。田舎者というか地方出身の人が。僕も田舎者なんでね。東京出身の人ってそんなにオシャレしないイメージです」

前田「かせきさんが東京出身だったら、今の発言は怒られてますね(笑)」

かせき「でも、地方の人の方が意外とオシャレだったりするじゃないですか。田舎というか地方都市、例えば大阪や熊本、福岡とか。ライブなどで各地に行って、時間があるときに地元のアパレルショップに入ったりすると、そこから情報や文化を発信しているというかね。店長が若い子に色々教えてあげてるような感じ。ようはコンプレックスとかハングリー精神から来るものだと思うんです」

前田「地方は情報が少ないから自発的に“掘る(調べる)”意識が強いですよね。東京だと何でもあるし、昔はインターネットもなかったので、なおさら。そういえば、かせきさんはいつもネクタイをされていることが多いと思うんですが、なにかこだわりとかあるんですか?」

かせき「20年くらい前かな、山下達郎さんの歴代ライブ映像を観たんですが、シャツ着てネクタイして、山下さんのファッションがずっと同じだったんですね。『あ、これは楽でいいな!』って気が付いちゃって(笑)。毎回、ライブで衣装を悩まなくて済むなと」

前田「なるほど(笑)」


かせき「最近はご無沙汰ですけど、それからシャツとネクタイはずっとブルックスブラザーズで買ってました」


お気に入りのブルックスブラザーズのシアサッカーシャツとニットタイ


ー学生の頃、服飾と絵はどちらがお好きだったんですか。

かせき「同じくらい好きでしたね~。でも、ちょうどDCブランドの流行りが終わりの頃で、セレクトショップなんかもまだそんなに元気があるわけでもなく……。それで、服の仕事ではなくて絵の方で頑張ろうということで、ずっと絵を描ける仕事ってなんだろうと色々調べて、ゲーム会社だったら一日中絵を描いていられると思って、ナムコに入ったんです」

前田「そこからずっと絵を描いてこられて、産みの苦しみはあるかもしれないですが、天職を見つけた感じですかね」

かせき「いつもルンルンというわけではないけど楽しいですね、やっぱり。体の一部というか、自然に呼吸しているような感じで描けています」


ー現状、音楽と執筆と絵を描くって、ご自身の中でそれぞれ棲み分けや切り替えって上手くできていますか。

かせき「自分の中では全て“絵を描く”っていう風に捉えていて。ヒップホップの音楽って反骨精神とか差別とかを謳ったりするじゃないですか。でも自分は日本で普通に何不自由なく生きてきたので何かないかなと思ったときに、絵を描くみたいに言葉を絵の具のように使って書けばいいんじゃないかと。で、そういう風に考えてやったら、徐々に歌詞も書けたんです」

前田「その発想は、かせきさんならではという気がします」

かせき「そうなのかなぁ。自分は子供の頃から松本隆先生の歌詞がすごく好きで。若い頃は気が付かなかったんですけど、色んな歌手の好きな歌詞を追っていて、後にそれがほとんど松本先生が書いたことが分かったんですね。松本先生の歌詞ってなぜか絵が浮かぶんですよ。だから自分も歌詞を描くときは絵が浮かぶようにしようと」


ー絵を描かれるときに、アイデアとか技術面とかで影響を受けたものってありますか。

かせき「特に影響を受けたとかではないんですけど、他人の絵を見て“人の振り見て我が振り直せ”的な考えはあるかもしれないですね」

前田「反面教師的な感じですか」

かせき「絵の上手さや下手さということではなくて、もっとシンプルに描けばいいのにって。どうしても色んな要素を描き込んじゃうんですよね、みんな。僕はそもそもそんなに絵が上手いわけじゃないから、極力シンプルに描こうと思ってて。以前、参加したグループ展に、予備校時代の先生でイラストレーターをやっている方が見に来てくれたんですが『やってない(描き込んでない)のがエライ!』って言ってくれて、間違ってなかったなと思いました」

前田「引き算するのって一番難しいですよね。一応、Tシャツに落とし込む際にかせきさんの絵は作品のイメージをそのまま投影できるようにはしてるつもりです」

かせき「僕もよくTシャツのデザインはさせてもらうんですが、Tシャツの絵と実際に飾りたい絵って違うんですよね。イラストレーターや画家の作品をそのままプリントしてるTシャツってよくあると思うんですが、ちょっと違和感があるというか。あくまでTシャツならTシャツ用の落とし込み方があると思うんです」


かせき「背景のシルバーは特に何度も塗り重ねてるんです」



前田「今回描いていただいたジェントルマンとブロンドレディもあくまでTシャツありきのデザインですもんね」

かせき「Tシャツ用のものをあえて今回は先にキャンバスに描いたんですが、最終的に何用に使うのかっていうのは重要ですね」

前田「それはやっぱり、かせきさんがもともと服も好きだからっていうのもあるんでしょうね。普通のイラストレーターだったら、あくまで作品として描いちゃったり、自分の色を出そうとしちゃったり」

かせき「そうそう、僕は自分の色を極力出したくないんです。なんだったら、かせきが描いたと思われたくないくらい。結果的になんとなく“滲み出てる”くらいでいいじゃないかなと」

前田「かせきさんは服のこともよく分かってらっしゃるから、僕らも描いていただきたいものをお願いするときに、ちゃんと共通言語があるので伝わりやすくて助かっています。柔軟な発想で臨機応変さがあるのは、サンプリングカルチャーというかヒップホップの世界で生きてこられたからこそっていうのもあるんじゃないですかね」

かせき「まぁ僕がやっていることは隙間産業なんでね(笑)。王道は誰かがやってるから、僕は間違ったことをやろうと。間違ってるからこそ、新しいものができるんじゃないかなって」

前田「視点を変えてってことですよね」

かせき「みうらじゅんさんなんてまさにそうで。ゆるキャラとか、とんまつりとか」


ーみうらじゅんさんのマイブームから繋がるわけではないですが、最近ハマっていることなどはありますか?

かせき「実はエプロンにハマってまして。ご覧の通り、長髪にいつもサングラスっていう見た目なので、近所だと“怪しいオジサン”だと思われてるんですよ、たぶん。で、絵を描くときはいつもエプロンしてるんですが、そのエプロンは絵の具だらけで汚いので、外出用に新調したエプロンがこれなんです。外でエプロンしてると“どこかに所属してる人”に見えるでしょ?(笑)」


かせき「ポケットもあって便利なんです」



前田「たしかに怪しくは見えない(笑)。これで社会に馴染もうとしてるんですね」

かせき「『花屋さんの配達かな?』とか『飲み屋でお酒切らしちゃったのかな?』って思われそうでしょ?」

前田「たしかに(笑)。フリーランスの人って、何かに所属したい願望ありますよね」

かせき「いずれ、サイダープロダクツでエプロンもつくりたいな〜。そのときはまたよろしくお願いしますね」

前田「もちろんです!」


ー最後に、今回のコラボTシャツを実際に試着していただければと思います。

かせき「あ、いいですか! 出来上がったTシャツを今日初めて見るので、楽しみにしてたんです!」


プリントの仕上がりを確認するかせきさん

 

 

かせき「白は爽やかな感じでいいね! 女性にもぜひ着てもらいたいです」



かせき「生地もしっかりしていて、着心地も気持ちいいですね。
ノースリーブも意外と似合うでしょ?(笑)」


かせき「インナーに着ても映えるね〜🎵 バラクータとも合いますね」



お二人とも気さくで親しみやすいお人柄で、終始和やかムードで進んだ今回のインタビュー。本日はお忙しい中、本当にありがとうございました。



<かせきさいだぁ>プロフィール

1968年生まれ、静岡県出身。桑沢デザイン研究所卒業。1995年、1stアルバム『かせきさいだぁ』でデビューし、ヒップホップミュージシャン・ラッパーとして活動。現在まで、オリジナルアルバムを6枚リリースしている。また、イラストレーター・作詞家・漫画家・随筆家など幅広いクリエイティブを手掛けるマルチアーティストとして活躍。年に数回は個展を開き、作品も精力的に発表する。


<前田浩幸>プロフィール

1971年生まれ、京都府出身。TOUGHERコンセプター。京都の名セレクトショップ「ロフトマン」のスタッフを経て起業。‘80年代後半よりレゲエミュージックのセレクター・DJとして活動し、今なお京都を拠点に音楽活動の傍ら、イベンターとしてファッションと音楽の架け橋的な役割を担いながら、積極的にシーンの活性化に取り組んでいる。現在はデザイン事務所「ロバストソン」を運営。